39歳以下のAYA世代を応援する健康講座

第3回血液がんと妊孕性温存療法(3月16日放送)

血液がんは、白血病や悪性リンパ腫といった病気に代表されます。血液をつくる骨髄や体中の免疫を担当するリンパ球が悪性になってしまう病気で、胃がんや大腸がん、乳がんなどのようにどこかの臓器にできるものではなく、全身をめぐる血液の病気になります。10代、20代のほか小児でも発症することが多いがんです。
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血液がんは全身の病気ですので、治療は手術というより、化学療法、いわゆる抗がん剤の治療がメインになります。化学療法や放射線治療で骨髄にある正常な細胞も含めて破壊し、その後に赤血球や白血球、血小板などの血液細胞のもとになる、正常な人の「造血幹細胞」を点滴で移植する造血幹細胞移植が治療の中心になります。近年はさまざまな化学療法の薬が開発され、血液がんになっても、長期の生存が可能な場合も少なくありません。
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こうした治療の多くは、がん細胞にはとても有効な半面、妊娠に必要な精子や卵子に影響を及ぼしてしまうことが多いのです。特に、血液がん特有の治療として造血幹細胞移植を行うことがありますが、この治療を行った場合にはほとんどの患者さんが精子や卵子を失ってしまうことになります。
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精子や卵子を生かしておくためには妊孕性温存療法があります。妊孕性温存療法はがんになってしまっても、将来、妊娠できる可能性を残しておくための治療です。将来、子どもがほしいという状況になった場合に備えて、がん治療を始める前に主治医の先生と妊孕性温存について相談することはとても大事なことです。

ただ、血液がんは、乳がんや胃がん、大腸がんなど臓器にできたがんに比べて治療を急ぐ場合がとても多いです。そのため治療開始後に、ようやく落ち着いて妊孕性について検討できるようになるといったケースが少なくありません。その場合でも何かできることがあるかもしれませんので、ぜひ一度、早めにご相談ください。
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妊孕性温存療法は女性の場合、「未受精卵子凍結」、配偶者などがいて精子と結合させた「胚(受精卵)凍結」、二つある卵巣のうち一つの卵巣を細かく刻んで凍結保存しておく「卵巣組織凍結」といった方法があります。思春期前の女の子には、この卵巣組織凍結が用いられることが多いです。一方、男性の場合は精子を凍結保存するという方法です。妊孕性温存療法は理論上では、ゼロ歳から実施することが可能です。
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費用は保険適用外で、全て自費になってしまいます。ただ、各都道府県で助成制度があります。山梨県に住所がある方であれば、「山梨県がん患者等妊孕性温存支援事業」という助成金の制度を利用することが可能です。
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山梨大学医学部附属病院は、こうした妊孕性温存療法にかかわる県内唯一の「医学的適応による未受精卵子、胚(受精卵)、および卵巣組織の凍結・保存に関する登録施設」です。また、「認定がん・生殖医療ナビゲーター」という相談に乗れる資格を持っている者も在籍していますので、がん患者さんの治療後の人生を見据えたサポートが可能です。

詳細は、山梨大学医学部附属病院のホームページ内の「お知らせ」に掲載されている「腫瘍センターセミナー」から「がん・生殖医療」という動画をご覧いただくか、山梨大学医学部産婦人科のホームページにも治療手順などが掲載されておりますのでご確認ください。

もし、ご自身や身近な方が「がん」と診断されてしまったら、治療が始まる前に「妊孕性温存」について主治医と相談してみてください。治療が始まってから知った方も早めにご相談ください。特に血液がんの場合にはこの療法が必要ですし、乳がんと比べても圧倒的に若い方の罹患が多いので、ぜひ周りの方がサポートしてあげてください。妊孕性温存を希望される場合は、主治医を通して山梨大学医学部附属病院産婦人科の小川あてにお問い合わせをお願いいたします。
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講師紹介

小川達之氏

山梨大学医学部産婦人科助教

小川 達之(おがわ・たつゆき)氏

山梨大学医学部卒。医学博士。専門は生殖医療、産婦人科一般。日本産科婦人科学会専門医・指導医、日本生殖医学会生殖医療専門医、日本人類遺伝学会・日本遺伝カウンセリング学会臨床遺伝専門医、日本がん・生殖医療学会認定ナビゲーター。神奈川県横浜市出身。