39歳以下のAYA世代を応援する健康講座

第4回男性のがん、小児がんと妊孕性温存療法(3月30日放送)

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これまで3回にわたって、がんになってしまっても「将来妊娠できる可能性を残しておく」という妊孕性温存療法についてお話をさせていただきました。特に2回目は乳がんに関するお話もしましたし、「妊娠」ということを考えますと若い女性に向けたものと思われる方も多いと思います。しかし、男性や小児にとっても大切な治療ということになります。
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たとえば男性特有のがんになりますが、精巣にがんができてしまった場合、早急な治療が必要となり、発見された段階ですぐに精巣を切除して、さらに化学療法を行うことが多いです。また、小児がんには白血病などの血液がんの割合が多く、精子や卵子に影響を及ぼす可能性が高い化学療法、あるいは3回目の血液がんのコーナーでもお話ししました造血幹細胞移植が治療の中心となります。できれば精子や卵子を保存しておきたいところですが、思春期前の小児の場合は精子や卵子を取り出すということはかなり難しいことになってしまいます。
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そのため、女の子の場合には、「卵巣組織凍結」が検討されます。腹腔鏡による手術で卵巣を片方取り出し、それを細かく刻んで凍結保存しておきます。やがて妊娠を望むなど、卵巣が必要となった時に再度手術をしてもともと卵巣があった辺りに戻します。男の子の場合は、日本国内でも「精巣組織凍結」が研究的に行われ始めています。山梨大学医学部附属病院でも、将来的には泌尿器科と協力して導入していきたいと考えています。

将来、「子どもがほしい」と考えるようになった場合に備えて、がん治療を始める前に主治医の先生と妊孕性温存について相談することはとても大事なことです。もし、お子さんががんになってしまった場合は親御さんからぜひ主治医に相談してみてください。
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こうした妊孕性温存療法の治療費は残念ながら健康保険の適用にはならず、全て自費になってしまいます。ただ、各都道府県で助成制度があります。山梨県に住所がある方であれば、「山梨県がん患者等妊孕性温存支援事業」という助成金の制度を利用することが可能です。
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山梨大学医学部附属病院は、こうした妊孕性温存療法にかかわる県内唯一の「医学的適応による未受精卵子、胚(受精卵)、および卵巣組織の凍結・保存に関する登録施設」となっています。また、「認定がん・生殖医療ナビゲーター」という相談に乗れる資格を持っている者も在籍していますので、がん患者さんの治療後の人生を見据えたサポートが可能です。

詳細は、山梨大学医学部附属病院のホームページ内の「お知らせ」に掲載されている「腫瘍センターセミナー」から「がん・生殖医療」という動画をご覧ください。また、山梨大学医学部産婦人科のホームページにも治療手順などが掲載されておりますのでご確認ください。

もし、ご自身や身近な方が「がん」と診断されてしまったら、治療が始まる前に「妊孕性温存」について主治医と相談してみてください。治療が始まってから知った方も、早めに相談していただければできることがあると思います。特に小児や、男性の精巣腫瘍も10代、20代に多いですから、自分だけですべてを判断することは難しいと思います。周りの方がぜひサポートしてあげてください。

4回にわたり妊孕性温存療法についてお話ししてきました。がんと分かったばかりのときはショックも相まって治療を優先して考えてしまうのは当然のことです。しかし、がん治療と妊孕性温存は背中合わせです。繰り返しになりますが、妊孕性温存療法は将来、子どもが欲しいと願ったときにかなえられる可能性を残せる療法です。がん治療を始める前にこの温存療法があることを知っておいてほしいのです。妊孕性温存を希望される場合は、主治医を通して山梨大学医学部附属病院産婦人科の小川あてにお問い合わせをお願いいたします。
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講師紹介

小川達之氏

山梨大学医学部産婦人科助教

小川 達之(おがわ・たつゆき)氏

山梨大学医学部卒。医学博士。専門は生殖医療、産婦人科一般。日本産科婦人科学会専門医・指導医、日本生殖医学会生殖医療専門医、日本人類遺伝学会・日本遺伝カウンセリング学会臨床遺伝専門医、日本がん・生殖医療学会認定ナビゲーター。神奈川県横浜市出身。