2024年12月27日放送
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中小企業の防災・減災対策
小松 自然災害が多発する日本では、いつ水害や地震による被害にあうか予測できません。災害リスクへの事前対策は、家庭だけでなく、中小企業においても不可欠となります。そこできょうは、いま中小企業が考えたい「事業継続力強化計画」をご紹介します。
山梨県産業政策課 前島 健太 さん とお伝えします。前島さん、よろしくお願いします。
前島 よろしくお願いします。
小松 「事業継続力強化計画」とはどんなものでしょうか?
前島 まず、事業継続力強化計画の説明の前に、事業継続計画=BCPと呼ばれるものを聞いたことはありますでしょうか?
これは、企業が自然災害、新たな感染症の流行、サイバー攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、会社の損害を最小限にとどめつつ、事業の継続や早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです。
一方で、「事業継続力強化計画」は企業が防災・減災のために事前に策定する計画という点ではBCPと似ていますが、こちらは事前対策や被災後にまず何をすべきかを中心に検討するもので、中小企業でも取り組みやすいように考えられた「BCPの入門編」という位置づけになります。
小松 比較的導入しやすい災害対策というわけですね。
前島 「事業継続力強化計画」は自社の災害リスクなどを認識し、防災・減災対策のはじめの一歩として、中小企業でも作りやすいのでお勧めです。さらに、国の認定を受けると、税制優遇や補助金の加点、金融支援を受けられるメリットがあります。
小松 策定するといろいろなメリットがあるんですね!「事業継続力強化計画」の策定など、事前対策を行っているのと、事前対策を行っていないのでは、企業の事業活動にどんな違いがみられるんでしょうか?
前島 ある大規模地震(H28年熊本地震)の事例では、事前対策をしていなかった企業は復旧・事業再開に要する日数が41日だったところ、しっかり対策していた企業はわずか13日だったという例がありました。このように、事前対策をしておけば、していない場合と比べて約3倍速く、復旧・事業再開が可能です。
小松 対策を実施していない場合は41日…対策を実施している場合は13日…相当な差が出てきますね。
前島 そうですね。さらに、事業の復旧に時間がかかると、取引先は復旧を待たずに替わりの取引先を探してしまうため、事業が停止している間にビジネスチャンスを失うことになってしまいます。営業停止期間が1週間あるだけでも、約2割の企業で取引先が減少してしまったというデータもあります。速やかに復旧に取り組むことで、取引先を失う前に事業再開することができます。
小松 確かに、取引先も事業を継続しなくてはいけませんから、なかなか待ってはくれませんよね…。
では「事業継続力強化計画」を策定するにあたって、具体的には何から考えるのでしょうか。
前島 はい。まず事業継続力強化の目的の検討をします。災害が発生し、事業が続けられなくなると、従業員の雇用が難しくなるかもしれません。自社が担っている部品の供給がストップすれば、他社の製造を停止させてしまうことも考えられます。目的は、例えば、「災害時にも従業員とその家族の人命と生活を守る」だったり、「事業を止めることなく、顧客や地域社会への影響を最小限に抑える」だったり、明確な方向性をもつことが大切になります。
小松 その次はいかがでしょうか?
前島 災害時のリスクの確認・認識をすることです。対応すべきリスクや影響がわからなければ、事前対策を立てられません。ハザードマップ等を確認して、自分の会社の所在地ではどのような災害が起こりうるのか調べ、被害を想像してみましょう。想像することで、必要な対策が見えてきます。
小松 リスクといっても様々な被害状況が考えられそうですね。
前島 例えば、人命確保は従業員だけでなく、来訪者の安全確保ついても考えなくてはいけません。来訪者は従業員と違い、不慣れな場所で被災することになるので、災害発生時の初動は十分な対策を立てる必要があります。
また、工場などでは、緊急時に生産設備の停止が必要になる場合があります。従業員の安全、二次災害の防止のため、必要に応じて緊急停止の手順や、その周知方法を検討しておくことが大切になります。
小松 それぞれの企業にあった事前対策が必要になりますね。まず「目的」を検討して、リスクの確認・認識を行う。その後はいかがでしょうか?
前島 「ヒト」「モノ」「カネ」、さらに「情報」への事前対策を検討していきます。
小松 なるほど、そこから、さらに細分化して対策を検討していくんですね。具体的にはどんな対策になりますか?
前島 例えば「ヒト」への対応では、従業員の避難方法の確認や従業員の連絡網などを整備して、安否確認方法を事前に考えておくことが挙げられます。避難訓練を定期的に実施したり、計画の内容を従業員へ説明する研修も有効です。担当者が出勤できないことも考えられますので、在宅勤務できる環境を整えたり、複数の担当者で業務を行うこともいいかもしれません。
小松 「モノ」や「おカネ」はいかがでしょうか?
前島 「モノ」は建物や設備、電気ガス水道などのインフラ、在庫品や備蓄品などです。建物の耐震対策はもちろん、棚、机、パソコンなどを固定しておくこと、重要書類や電化製品が水に浸らないよう、高い位置へ上げておくこと、重いモノが揺れで落下しないよう高い所に置かない等が挙げられます。
「カネ」は事業再開までの運転資金の確保、被災した際の建物・設備の修繕費などです。あらかじめ損害保険への加入を行っておき、建物や設備等の損壊への補償を検討しておくこと等が挙げられます。
小松 「情報」への対策はどんなことがありますか?
前島 「情報」はサーバやパソコンに保管されている電子データなどのことです。データのバックアップを取ってあっても、社内にしか保管されていないと、災害時、すべてが被災して情報が消失する可能性もあるので、遠隔地での保管やクラウドサービスの利用の検討も必要になります。
小松 最近はすべてデータ化していることも多そうですし、こちらも大切ですね。入門編とはいっても、中小企業にとっては時間やノウハウが不足している場合もありそうですが…。
前島 そうですね。そこで山梨県では、BCPや事業継続力強化計画の策定支援を含めた、様々な支援を行っています。
小松 それは心強いですね!もっと詳しく知りたい場合はどうすればよいでしょうか?
前島 はい。まずは、山梨県や中小企業庁のHPの「事業継続力強化計画」についてのページをご覧いただきたいと思います。具体的な策定方法を知りたい場合には、最寄りの商工会や商工会議所にご相談ください。
小松 これを機会にぜひ中小企業でも災害に備えた対策を検討していただきたいですね。
前島 そうですね!災害はいつどこで発生するかわかりません。だからこそ、事前の準備が重要です。自分の会社や従業員、お客様の安全を守るために、事業継続力強化計画を策定していただきたいと思います。
小松 この時間は山梨県産業政策課 前島 健太さんとお伝えしました。ありがとうございました。
前島 ありがとうございました。